逆イールド下の債券デュレーション最適化とバーベル戦略

国債市場におけるイールドカーブの形状、特に10年債と2年債の利回りスプレッド(10Y-2Y Spread)は、現在歴史的な水準で「逆イールド(Inverted Yield Curve)」を形成し続けています。これは単なる市場のアノマリーではなく、FRBの金融引き締め政策による短期金利の上昇と、将来の景気減速を織り込む長期金利の低下圧力が衝突している証左です。本稿では、感情的な市場予測を排除し、現在のタームストラクチャーに基づいた最適なデュレーション管理と、バーベル戦略を用いたポートフォリオ構築の論理的枠組みを提示します。

1. イールドカーブ逆転のマクロ経済的含意

通常、イールドカーブは期間が長いほどリスクプレミアムが上乗せされ、右肩上がり(順イールド)となります。しかし、現在の逆転現象は、債券市場参加者が「短期的なインフレ抑制のための高金利」と「中長期的な景気後退(Recession)による利下げ」を同時にプライシングしていることを意味します。

過去のデータに基づけば、逆イールドの発生から平均して12〜18ヶ月後に景気後退局面入りする確率が高いとされます。この局面で重要なのは、単に「景気が悪くなる」という定性的な予測ではなく、クレジットスプレッドの拡大やデフォルトリスクの上昇を定量的に評価し、資産配分を再考することです。

Key Metrics: 10Y-2Y Spread Analysis
現在のスプレッドがマイナス圏で推移している場合、銀行の調達コスト(短期)が貸出金利(長期)を上回るため、信用収縮(Credit Crunch)が加速するリスクがあります。これは実体経済へのラグを伴った下押し圧力として作用します。

2. ポートフォリオ・デュレーション管理とバーベル戦略

このような金利環境下において、ベンチマークに追随するだけのパッシブな運用は推奨されません。イールドカーブがフラット化、あるいはスティープ化(正常化)するプロセスを見据えた戦略的ポジショニングが必要です。

バーベル戦略(Barbell Strategy)の有効性

バーベル戦略とは、中期債(5年〜7年)を保有せず、極短期債(3ヶ月〜2年)と超長期債(20年〜30年)の両端に資金を配分する手法です。

  • 短期債(Short-end): 現在の高金利(キャリー収益)を享受しつつ、価格変動リスクを極小化する役割。流動性の確保。
  • 長期債(Long-end): 将来の利下げ局面におけるキャピタルゲイン(凸性・Convexityの効果)を最大化する役割。

この戦略は、イールドカーブが将来的に「ブル・スティープニング(短期金利が急低下して正常化する)」する場合に、中期債に集中投資するブレット戦略(Bullet Strategy)よりも優れたパフォーマンスを発揮する傾向があります。

Bull Case Strategy: 景気後退が鮮明となりFRBが早期利下げに転じた場合、長期債のデュレーション効果によりポートフォリオ全体の評価額が大幅に上昇します。

3. 債券評価モデルとデュレーション計算

債券ポートフォリオのリスク管理において、マコーレー・デュレーションおよび修正デュレーションの正確な把握は必須です。以下は、金利変化に対する債券価格の感応度を計算するための基礎的なPythonコードブロックです。


# Python Code for Bond Duration Calculation
def calculate_modified_duration(price, coupon_rate, face_value, years, ytm, frequency=2):
    """
    Calculate Modified Duration of a Bond.
    ytm: Yield to Maturity (decimal)
    frequency: Coupon payments per year
    """
    coupon_payment = face_value * coupon_rate / frequency
    periods = years * frequency
    period_ytm = ytm / frequency
    
    macaulay_duration = 0
    discounted_price = 0
    
    for t in range(1, periods + 1):
        present_value = coupon_payment / ((1 + period_ytm) ** t)
        if t == periods:
            present_value += face_value / ((1 + period_ytm) ** t)
        
        macaulay_duration += t * present_value
        discounted_price += present_value
        
    macaulay_duration = (macaulay_duration / frequency) / discounted_price
    modified_duration = macaulay_duration / (1 + period_ytm)
    
    return modified_duration

# Example Usage
# Price: 950, Coupon: 4%, Face: 1000, Years: 10, YTM: 4.6%
duration = calculate_modified_duration(950, 0.04, 1000, 10, 0.046)
print(f"Modified Duration: {duration:.2f}")
Risk Factor: デュレーションが長いほど金利感応度は高まりますが、同時にボラティリティも増大します。金利が予想に反して上昇(債券価格下落)した場合のダウンサイドリスクを許容できる範囲内でデュレーションを設定する必要があります。

4. シナリオ別アセットアロケーション比較

以下の表は、今後のマクロ経済シナリオに基づいた推奨される債券セクターの配分比率を示しています。スタグフレーションのリスクを考慮し、TIPS(物価連動国債)の組み入れも検討すべきです。

シナリオ 確率 短期国債 (T-Bills) 長期国債 (Treasury) 社債 (IG/HY) TIPS
ソフトランディング 40% Neutral Underweight Overweight Neutral
ハードランディング 35% Underweight Strong Overweight Underweight Underweight
スタグフレーション 25% Overweight Underweight Underweight Strong Overweight

結論と投資スタンス

現在の逆イールド環境下では、リスク・リワードレシオを考慮すると、クレジットリスク(社債)を過剰に取るよりも、国債を中心としたバーベル戦略によるデュレーション管理が合理的です。短期的には高いインカムゲインを確保しつつ、不透明なマクロ経済環境の変化に対して、長期債によるヘッジ機能を維持する「攻守兼備」のポートフォリオ構築が、ダウンサイドリスクを抑制しつつアルファを創出する鍵となります。

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